彼岸と此岸という言葉には、仏教的な意味があります。古代インドの言葉であるサンスクリット語の「PARAMITA(パーラミター)」という言葉が、中国に伝わり「到彼岸」と訳されて、それが日本では「彼岸」と略されるようになりました。
元々のパーラミターは「彼岸に到達する」という意味であり、それは本来、仏教の修行を完成して、悟りの境地である「涅槃」に達するという意味になります。この涅槃の境地が場所空間的に例えられて、彼岸すなわち「彼方の岸」となったのです。
彼岸に対するのは「此岸」です。それは「此方の岸」という意味であって、私たちの生きている今ここの世界です。大乗仏教の浄土教典には、此岸から見て西の方向に「極楽浄土」という仏の国があると記されていますので、彼岸とは「仏の在るところ」を示します。
太陽が真西に沈むその時期には、私たちにとっても、仏の世界が近くに感じられるということです。
2019年に製作された作品『此岸・彼岸』では、写真家・石黒健治氏が2010年代に撮影されたロンドン・パリ・東京・ミラノ・南京・ワルシャワ・沖縄・ゴールドコーストなど世界各地の写真に合わせて、2019年の春彼岸と秋彼岸に能登と富山で撮り下ろされたの陽光の写真がご覧いただけます。
これらの写真に、慶集寺住職・河上朋弘が言葉とサウンドトラックを組み合わせて、一編の作品『此岸・彼岸』として構成しました。本作品のサウンドトラックは「WHITE NIGHT/RICHARD LAINHART(ExOvo 1974)」「EXPE/TEERA(NUEXPE 2006)」「Sympathy/YUME(Yasuhiro Minamiza 2008)」の三作品を、音響編集して制作されたものです。