⑤02. リビング念仏のすすめ
私にとっての宗教とは、自分自身の人生を生き抜くための「拠り所(根拠)」であり「羅針盤(指針)」です。あれに迷いこれに惑いしながら生きている私に、ぶれない信念や確かな方向性を指し示してくれるものです。頼みの綱(つな)にも、救いの網(あみ)にもなってくれるものです。
世界にはさまざまな宗教があり、ひとそれぞれの信仰があり、どれを信じるのも信じないのも個々人の自由だと思います。けれどもまた、自分自身が確かに信じて実践している宗教を、たまたま出会った人に伝え、おすすめすることも自由であると思います。
私が実践している信仰は、南無阿弥陀仏のお念仏を日々の生活のなかで称えながら、自分自身を自然体で生きようとする、浄土真宗という仏教です。
漢字で六文字にして書かれる「南無阿弥陀仏」を、「なむあみだぶつ」と称えても、「なもあみだぶ」でも「なんまんだぶ」でも「なまんだぶ」と称えてもかまいません。私の称えるその声を海外の方々にもお伝えしたいと思い、私は「namamdhabud」とアルファベット表記にしてみました。
自分のスタイルで無理なくお念仏を称えながら生活するということには、3つのいいところがあります。
1つ目にはまず、お金がかからない。これは重要です。
どれだけ称えても、ただです。
好きなだけ称えられて無料です。
称え放題です。
私はお寺の住職ですから、その運営にはお金が必要です。無理のない範囲で、可能な限りのお布施をしていただけると、本当に助かります。けれどもお念仏を称えることそれ自体に、特別なお金が必要ではありません。
お念仏を称えることは自分の問題です。人から強制されてするものではありません。誰かからお金を請求されるようなものでは決してありません。
お念仏の2つ目のいいところは、時間がかからないということです。これも重要なことです。
現代社会では、みんないつも気忙しく、多忙になりがちです。お寺でのお参りにお誘いしても、その日はちょっと予定があって…という方は多いです。お寺参りよりも優先したいことがたくさんあるのは仕方のないことでしょう。お寺参りは義務なわけではないですから。
けれどもお念仏を称えること自体に、それほど時間はかかりません。お念仏を称えるのも称えないのも自分次第です。家事の最中や仕事の合間でも、ヨガをしながらでも、朝起きたらでも、夜寝る前にでも、いつでもどこでも称えることができます。
お念仏をいつも称えていると、それが次第に身についてきます。お香をいつも焚いているとその香りが身体に染み付いてくるように、お念仏も習慣づけられていくもののようです。
何も考えなくても、称えようと自分で意識しなくても、お念仏が自然と口から出てくるようになるのです。何も求めないで出てくる「空念仏(からねんぶつ)」こそが、理想的な念仏です。
お念仏のいいところの3つ目は、誰にでも出来るということです。お念仏を称えるのに、何か特別な技術や才能は必要ありません。ただ「南無阿弥陀仏」と声にするだけ。これだけでいいのです。
何でも三日坊主の私にだって続いていますから、子供でも、お年寄りでも、病気の人であっても、障害がある人であっても、きっと誰でも無理なく出来ると思います。
声に出さなくてもいいです。
心の中でそれを称えて、
自分自身の心の耳でその声を聞く。
心を静かにして、
その声に耳を澄ますことが出来れば、
大丈夫です。
何回称えればいいのかなんていう決め事もありません。ただ自然に、素直な気持ちで、なまんだぶと称えて、その声に心の耳を傾ければいいのです。
心を静かにして、耳を澄まして、その声に耳を傾ければ、
それでいいのです。
自分のペースで、無理のない感じで、ちょうどいい感じで。
1960年代頃に、世界に禅仏教を伝えられた鈴木大拙博士は、日常生活のなかで勤められる浄土真宗の念仏実践を「リビング念仏」と表現して、日々の暮らしの中で繰り返し「南無阿弥陀仏」の念仏を称えて、それを習慣にすることを勧められました。
namamdhabud
namamdhabud
namamdhabud
声に出さなくてもいいと言いましたが、ちょっと声に出してみると、もっといいと思います。
内に溜め込まれたストレスが、外に発散されて、すっきりします。
お念仏は、自分の生活に自然とよい効果をもたらしてくれると思います。
悪循環の思考に陥らないように、気持ちのスイッチを切り替えてくれます。
気持ちがすーっとして、ほっとして、そして、心にぐっとくる。
どんよりとした心が浄化されて、安らかで、豊かな心になれる。
そんな効果があります。
頑張ることは大切ですけれども、頑張り過ぎはよくありません。
気持ちを楽にして、肩の力を抜いて、「なんまんだぶ」です。
私はこの文章の最初に「お念仏にはいいところが3つある」と言いました。
けれども本当は、人間の意識を遥かに超える、
無限のご利益があります。
無限のご利益のある「南無阿弥陀仏」に、
私たちが学ぶべきことは多くあると思います。
いまここに聞く「南無阿弥陀仏」の声に、
耳を澄ましたいと思います。
namamdhabud
① 日本のスピリチュアリティ
01. 日本人の仏教観
02. ありがとう おかげさま
03. 仏と一つに成る
04. 彼岸からの光
② 仏の教えと大乗思想
③ 聖徳太子の仏法
01. 日本のお釈迦さま
02. 信と礼と和の理想
03. 世間虚仮 唯仏是真
④ 親鸞聖人が伝える信心
01. 仏法僧の3つの宝
02. 信と真と心のプラサーダ
03. 俗にそまらず 悟りすまさず
⑤ 南無阿弥陀仏を聞く
02. リビング念仏のすすめ